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【小説感想】夏物語(著:川上未映子)

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私氏は大体単行本の小説を買うお金がなくて、文庫になるのを待って購入するタイプなんだ。ドケチだろう? 前回読んだ『ゲームの王国』もその手で、文庫になるのを他の小説を読んでワクワクしながら待って、文庫の発売日に購入したんだ。

でも今回読んだ本は読みたさが溢れてしまって、我慢できず単行本の価格でKindleで購入したのであった。

それが今朝読み終えた川上未映子著『夏物語』だ。

なんだかわからないけれど、書店で見かけた時からビビっと来て気になってしまい、立ち読みしてその流麗な文章に惚れ込み、『ゲームの王国』を読み終えたらすぐに読もうと大事に取っておいた本だ。

 

今日はそんな小説、川上未映子著『夏物語』の感想である。

 

川上未映子 著『夏物語』

この本は単行本の換算で500ページ超えの長編作品。

また読まない期間とかできて引っかかりながら読むんだろうなぁ、と大方いつもの読書スタイルをキメて読もうとページをめくり始めたんだけど、その流麗で心情を深く掘り下げた文章に圧倒されて、2ヶ月くらいでスッと読むことができた。

いやぁ、この小説は題材的に特に心情描写が大事になるんだろうな、という予想はしていたんだけれど予想の遥か上をいく素晴らしい人間模様に魅せられてしまったよ。

 

※以下軽くネタバレあると思います。

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川上未映子 著『夏物語』

この物語は、小説家を稼業とする38歳の夏子が主人公。夏子にはいつからか「自分の子供に会いたい」という思いが芽生え始め、相手を必要としない妊娠方法を探り始める。やがて精子提供で産まれ、本当の父親を探し活動をする逢沢に出会う。逢沢に心を寄せ始める夏子であったが、逢沢には既に善百合子という付き合う人がいた。百合子は夏子に子を宿し命を産み落とすことの残酷さを問うてくる。「この世は果たして産まれるに値する世界なのか…」そして、夏子の決断は。

 

的な話です。

 

感想は割と生々しい話になるかも知れないなぁ。

自分も女という体を持っていて、子供をこの体で育てることが、恐らくできるのだろう。その事実について改めて考えさせられたというか何というか……「ああ、そう言えば私は妊娠して子供を産むことができるんだな」とアホ丸出しで思ってしまった。

結婚して、一応この先のことなんかを考える段階に差し掛かっているにも関わらず、そのくらい子供を宿し命を産み落とすことに対する認識の甘さがあることを実感させられた。この小説はとても私に革新的な視点を与えてくれたと思う。

同時に、子供を産むという事は、この世にまだ存在したことのない人に初めて会うという体験であり、一口に産む、と言ってもこの事実を捨ておいてはいけないと思った。「自分の子供に会う」という描写が印象的だったこの作品は、子供は宿った時点で人間であり、自分の子供であるが同時にその人は一人の人間なのだ、産まれた瞬間からその人の人生が始まるのだ、ということを切々と訴えてきていた。

 

子を宿すことができる、女という存在と、女に子を宿すきっかけを与える男という存在。そのあり方についても様々な登場人物が様々な視点で活発に意見を交わしていた。

とにかく考える要素がたくさん。

両親ががいれば子は幸せになれるとも限らず、父親がわからないからとその子が不幸に落ち続けるとも限らず、ある人物はこの世に生まれることを望んでもいない人間を産み落とし、その子の幸福を願う事は親の賭けでしかないのでは? なんて極論すら切り出した。登場人物の女たちはそれぞれの立場からそれぞれの意見を夏子に差し出し、その中で夏子と読者は翻弄されていく。

人を産む、という行為に関して、人の幸福、という事象に関して、ここまで真摯に向き合って描写しきったのは本当に称賛しか出てこないし、まさに魂の小説だった。

 

この小説を読み終えて、本当に不思議な感慨に包まれたんだ。

私は夫さんと一緒に、いつか自分のお腹から産まれた初めて会う人の親になるかも知れないし、ならないかも知れない。どちらを選ぶのも私の自由だけれど、どちらを選んでもそれは私の人生で、そこに後悔だけは無いようにしないといけないな。

女性性とは、子をなす事とは、人のあり方とは、そんな人間の出生にまつわる根本的な問いをたくさん投げかけてきて、すごく色々なことを考えながら読んだ。でも最初に語ったようにすごく読みやすくて。ああ、これがプロの技なんだなと実感した。

 

育てる自信なんか全然ないけど、「自分の子供に会ってみたい」と思うのは自然なことなんだと、そう思わせてくれたこの小説は、私の宝物になりそうです。

 

女性が自分の生き方について考えるのにもおすすめだけど、これは男性にも読んでもらいたいなぁ。女の人がいかに苦しみいかに考えて子を成し育てるか、そう行った物事に対する疑問のヒントになると思う。 

夏物語 (文春e-book)

夏物語 (文春e-book)

 

とても面白かったです。

 

 

読んでくださりありがとうございました。